酩酊 小原晩

ばんぶんぼん!は作家の小原晩、星野文月とBREWBOOKS尾崎大輔の3人によるリレー連載です。3人で話してみたいテーマを持ち寄って、自分の思うこと、ふたりに聞いてみたいことなどを書いていきます。連載のタイトルは3人の名前や愛称をくっつけました。


文・写真・題字:小原晩/星野文月/尾崎大輔
キービジュアル:モノ・ホーミー

ふづきち、ぼんちゃん、こんばんは。
今回のテーマは「酩酊」。つまりは過度に酔っ払う、というような意味合いです。
おふたりとは先日、お酒を一緒にのみましたが、みんなそれなりに酔っ払って、なんだか良い時間でした。それなりを超えて酔っ払うと、ふたりはどんなふうになりますか?

私は先日、恋人のともだちと、その彼女、わたしの三人でのみにいったんです。恋人は大阪で仕事だったので不参加だったんですが、酒飲みのふたりのペースに合わせてぐいぐいのんでいると、私もすっかり酔っ払って、もう一軒、あと一軒とどんどん夜が伸びてゆきました。
ほんとうにこれで最後にしよう、と〆にうどんを食べに行き、午前四時過ぎに会はお開きとなりました。
私はタクシーに乗り込み、運転手さんに街の名前を伝え、そしてほとんど気絶するように眠りました。
タクシーが止まった気配で起きると、運転手さんに「ほんとうによかったですねえ」と声をかけられ、私はふしぎに思いながら「ああ、はい、そうなんです」と答えていました。お金を払い、タクシーから降りると、私の住んでいる街までは20分以上歩くところに私は立っていて、あら? と思った時にはぶーんとタクシーは発進しており、あららのら、そのとき電話がかかってきて、出ると、恋人で「ついたか」とひとこと。
「なんだか遠いところに降ろされてしまったんだよう。だからしばらく歩くんだよう」
そう言うと「そうかあ、気をつけるんやで」と恋人。
恋人のともだちカップルとお酒をのんだりするのは初めてのことだったので、私は存外緊張していたようで、恋人の声を聞いたことで一気に緊張の糸がきれてしまい、さっきまででもじゅうぶんに酔っ払っていたのに、倍以上の酔いがまわったようでした。ぐわんぐわんとする頭で必死に喋っていたら、なんだかきもちがあたたかくなってきて、それはお弁当をあたためる紐みたいに、急速に、私を熱くして、
「なっ、なんかあっ、ずっと、みんな、なんかあっ、ふたりともうっ、どんなに酔っ払ってもう、うっ、君のことを、わるく言わなくてねっ、ずっと君のことねっ、褒めて、いてねっ、なんかあっ、いい仲間があっ、君にはあっ、いるんだなあって、ううう、思ってねっ、ぐすっ、うううっ、よかったねえ、ほんとうにねえっ、うううう、わたしはあっ、それがあっ、うれっ、うれっ、うれしくてえっ、ゔゔゔ、泣いているけどもっ、それは、わたしはいまねっ、確かにっ、酔っ払ってねえ、泣いていますけど、でも、でも、このきもちはあっ、ほんものなんです。うれしいんです。ううう、うううう、ううう!」
 そのとき、明るくなってきた空の上で、一羽のカラスが高らかに鳴きました。
 かあー。かあー。かあー。
「ううううううううううっ、かっ、カラスもないてますけどもうううううう、ううっ、ううっ」
そう言って、家につくまで号泣していたらしいんです。
私、運転手さんにきっと同じことを言っていたのだと思います。

さて、おふたりの酩酊はどんな感じですか?


小原晩 / Ban Obara

2022年初のエッセイ集となる『ここで唐揚げ弁当を食べないでください』を自費出版。2023年「小説すばる」に読切小説「発光しましょう」を発表し、話題になる。 9月に初の商業出版作品として『これが生活なのかしらん』を大和書房から刊行。